
― 幼児期の特性に寄り添う“具体的なサポート”のヒント ―
以前のコラムで、幼児期のお子さまが見せる「こだわり」や「感覚の過敏さ」などの背景には、その子なりの感じ方や理由があることをお伝えしました。特性への理解が進むと、次に気になるのは「では、具体的にどう関わればいいの?」ということではないでしょうか。
発達に課題のある、あるいはその傾向が見られるお子さまへの支援では、子どもだけに「周囲に合わせること」を求めるのではなく、子どもが理解しやすく、安心して行動できるように、周囲の環境や大人の関わり方を工夫する「環境調整」という視点が大切です。
今回は、臨床発達心理学や発達支援、応用行動分析(ABA)などの考え方をもとに、家庭でも取り入れやすい4つのサポートをご紹介します。
1.「いつ・なにを」を伝える―時間と予定の見える化
幼児期は、時間の感覚や先の出来事を予測する力がまだ発達の途中にあります。特に発達に特性のあるお子さまの中には、「次に何が起こるのか分からない」「いつ終わるのか分からない」といった見通しの立ちにくい状況で、不安が強くなったり、活動の切り替えが難しくなったりすることがあります。
そのような時には、言葉だけで説明するのではなく、写真やイラストなどを使って予定を「見える形」にすることが役立ちます。
例えば、
· 写真やイラストを使う 「おもちゃの片付け」→「靴を履く」→「公園へ行く」といった流れを、写真や可愛いイラストのカードにして順番に並べて見せてあげましょう。
· タイマーを活用する 「長い針が『6』になったら」よりも、音や色の変化で残り時間が分かる視覚的なタイマー(タイムタイマーなど)を使うと、「あとこれくらいで終わりなんだ」と子ども自身で納得しやすくなります。
「見通し」が立つと、子どもは安心して次の行動へ移れるようになります。
大切なのは、子どもに急な変化を受け入れさせることではなく、できるだけ「これから何が起こるのか」を分かりやすく伝えることです。見通しを持てるようにすることで、不安が和らぎ、次の活動へ移りやすくなることがあります。
2.言葉は「短く・具体的に・分かりやすく」
言葉の理解が発達途中のお子さまや、一度にたくさんの情報を処理することが難しいお子さまには、大人の話し方を少し工夫することで、指示の内容が理解しやすくなることがあります。
例えば、
· × 長すぎる指示: 「おもちゃを片付けたら、手を洗って、パジャマを着てリビングに来てね」
· 👉 〇 ひとつずつ: 「まず、おもちゃを箱に入れようね」(できたら次を伝える)
· × 抽象的な指示: 「ちゃんと座って」「お利口にしていて」
· 👉 〇 具体的に: 「お尻をペッタン(床につけて)して座ろうね」
· × 否定的な指示: 「走っちゃダメ!」
· 👉 〇 肯定的に(してほしい行動を言う): 「ここは、アリさん歩き(ゆっくり歩く)で進もうね」
「走っちゃダメ!」という禁止の言葉についても、危険な場面ではもちろん必要ですが、普段の関わりでは「ここはゆっくり歩こうね」のように、してほしい行動を具体的に伝える方法があります。
大人にとっては当たり前に分かる言葉でも、幼い子どもには「では、どうすればいいの?」が分からないことがあります。「できない」と考える前に、「伝え方を変えたら分かるかもしれない」という視点を持つことも大切です。
3.「どっちがいい?」―小さな自己決定を大切に
幼児期は、「自分でやりたい」「自分で決めたい」という気持ちが大きく育っていく時期です。そのため、大人から指示されると「イヤ!」と反発したり、自分のやり方にこだわったりすることがあります。こうした姿も、自己主張や自律性が育っていく発達の一つの側面です。
そんな時には、大人がいくつかの選択肢を用意し、その中から子ども自身に選んでもらう「限定選択」が役立つことがあります。
例えば、
· 「着替えなさい」と伝える代わりに、「黄色のTシャツと恐竜のTシャツ、今日はどっちにする?」
· 「お片付けして」ではなく、「ミニカーと、ブロック、どっちから片付ける?」
自分で選ぶ機会があることで、子どもが主体的に行動しやすくなることがあります。ただし、限定選択は、大人の思い通りに子どもを動かすための方法ではありません。時には「どちらもイヤ」という気持ちにも理由があります。子どもの意思を尊重しながら、「自分で決められること」を少しずつ増やしていくことが大切です。
4.「できた!」の瞬間を、その場で認める
子どもが望ましい行動をした時には、できるだけその直後に、「何がよかったのか」を具体的に伝えて認めてあげましょう。
例えば、おもちゃを片付けた時には、ただ「えらいね」と言うだけでなく、「おもちゃを箱に戻せたね!」、順番を待つことができた時には「待てたね!」と、できた行動そのものを言葉にして伝えます。
応用行動分析(ABA)では、ある行動の直後にその子にとって嬉しい結果が伴うことで、その行動が今後起こりやすくなることを「強化」といいます。褒めることや笑顔を向けること、一緒に喜ぶことなども、その子にとって嬉しいものであれば「正の強化」として働くことがあります。
特別なことができた時だけ褒める必要はありません。「自分から椅子に座れた」「靴をそろえた」「呼ばれて振り向いた」「少し待てた」など、大人から見ると当たり前に思える行動の中にも、子どもが頑張っている瞬間はたくさんあります。
できていないことばかりに目を向けるのではなく、「今、できたこと」を見つけて伝える。その積み重ねが、望ましい行動を育てる大切な関わりになります。
成長の土台は、小さな「できた!」から
幼児期の発達支援で大切なのは、苦手なことを無理にさせて「できるようにする」ことだけではありません。その子が理解しやすい環境を整え、大人の伝え方や関わり方を工夫することで、「これならできる」という経験を少しずつ増やしていくことです。
「自分でできた」「分かった」「やってみたらうまくいった」という小さな成功体験は、「自分にもできるかもしれない」「もう一度やってみよう」という自己効力感や、新しいことに挑戦する意欲を支えていきます。
そして、環境調整は決して子どもを「甘やかす」ことではありません。必要な手がかりや支援を用意し、できることが増えてきたら、その子の成長に合わせて少しずつ支援を調整していくことも大切です。目指すのは、周囲に無理に合わせることではなく、その子自身が安心して力を発揮し、「自分でできること」を増やしていくことです。
家庭だけですべてを完璧に行う必要もありません。「写真で予定を見せるとうまくいった」「一度に一つずつ伝えると動きやすかった」「二つから選んでもらうと自分で決められた」など、その子に合った小さなヒントを園や学校、地域の支援機関と共有してみてください。
大切なのは、「どうしてできないのだろう」と子どもだけに理由を求めるのではなく、「どうすれば、この子にとって分かりやすくなるだろう」と周囲も一緒に考えること。
環境と関わり方を少し変えることで、子どもの「できた!」が増えることがあります。その一つひとつを大切にしながら、お子さまの「安心」と「やってみよう」を一緒に育てていきましょう。








