
― 臨床発達心理学・医学的知見から考える「感受性の高さ」―
「うちの子、周りの子より繊細で敏感な気がする」
「ちょっとした音や変化にすぐ反応してしまう」
「人混みに行くとすぐに疲れてしまう」
「大きな音が苦手で耳をふさいでしまう」
「お友達が怒られているだけで泣いてしまう」
「先生の表情や周りの空気を敏感に感じ取ってしまう」
「これって過剰な性格? それとも発達障がいなの?」
子どもの繊細さや生きづらさに接する中で、このような不安や悩みを抱えている保護者の方は少なくありません。
HSCとは
近年ではSNSやインターネットでも「HSP」という言葉を目にする機会が多くなりました。このようなお子さまの姿を見て、「うちの子はHSPかもしれない」と感じる保護者の方も増えています。
HSPとは「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」の略で、生まれつき刺激を深く受け取り、丁寧に処理する気質をもつ人を指す言葉です。この気質を子どもに当てはめた呼び方が「HSC(Highly Sensitive Child)」で、1996年に心理学者エレイン・アーロン博士が提唱しました。このコラムでは子どもを対象とするため、以降は「HSC」の表記で統一してご説明します。
大前提として知っておきたいのは、HSCは医学的な病気や障がいではなく、生まれ持った気質・性格のバリエーション(個人差)であるということです。
HSCは「障がい」ではなく「気質」
心理学や脳科学の研究では、アーロン博士の提唱以降、HSCの気質は「感覚処理感受性(Sensory Processing Sensitivity: SPS)」という心理・生物学的な特性として研究が積み重ねられてきました。
つまり、HSCは「治療や療育が必要な障がい」ではなく、人それぞれが持つ個性や気質の一つと考えられています。
HSCの子どもによく見られる特徴
感受性の高い子どもには、次のような特徴が見られることがあります。
· 周囲の変化によく気付く
· 人の気持ちを敏感に感じ取る
· 大きな音や強い光、人混みが苦手
· 初めての場所や活動では慎重になる
· 一つひとつの出来事を深く考える
· 相手が悲しんでいると自分もつらくなる
· 集団活動の後は一人で休みたがる
一見すると「繊細で心配」と思われることもありますが、その一方で、
· 観察力が高い
· 思いやりがある
· 想像力が豊か
· 芸術的な感性に優れる
· 危険を察知する力が高い
といった大きな強みも持っています。
大切なのは、「刺激に弱い子」と考えるのではなく、「刺激を人一倍深く受け止める子」と理解することです。
HSCと発達障がいはどう違うのでしょうか
発達障がい(ASD・ADHDなど、正式には「神経発達症」)は、脳の発達の特性によって社会生活に困難が生じる状態です。一方、HSCは病気や障がいではなく、気質の違いです。
例えば、ASDのお子さまにも感覚過敏が見られることがあります。そのため、「音が苦手」「光がまぶしい」といった様子だけを見ると似ているように感じられるかもしれません。
しかし、ASDは感覚面だけでなく、幼少期からの社会的コミュニケーションや相互的なやり取りの特徴、興味や行動の限定性・反復性なども含めて総合的に診断されます。一方、HSCの子どもは、人との関わりを求めたり、相手の気持ちをよく理解したりすることが多く、「空気が読めない」のではなく、むしろ「空気を読み過ぎて疲れてしまう」ことが特徴です。
また、ADHDとの違いもあります。HSCのお子さまは、教室が騒がしい、人が多い、刺激が強いといった環境では集中しにくくなることがあります。一方、ADHDでは、静かな環境であっても注意を持続すること自体に困難が見られることがあります。
もちろん、発達障がいと高い感受性をあわせ持つお子さまもいます。そのため、「感覚が敏感だからHSC」「音が苦手だからASD」と一つの特徴だけで判断することはできません。子どもの発達全体を丁寧に見ていくことが大切です。
子どもの力を伸ばすために大切なこと
高い感受性を持つ子どもは、良くも悪くも環境の影響を人一倍強く受けやすいことが研究で示されています。刺激が多く安心できない環境では疲れやすく、本来の力を発揮しづらくなる一方で、安心して過ごせる環境では、観察力や思いやり、創造性といった長所がより大きく伸びる可能性があることも分かってきています。つまりHSCの子どもにとって、環境づくりは「困りごとを減らす」だけでなく「強みを引き出す」ためにも重要な意味を持ちます。
そのため、ご家庭では次のような関わりが役立ちます。
· 「疲れたね」「頑張ったね」と気持ちを受け止める
· 疲れた時に一人で休める時間や場所をつくる
· 活動の予定や切り替えを事前に伝える
· 「敏感すぎる」と否定せず、その子らしさとして理解する
· できたことや長所を積極的に認める
子どもは安心できる環境の中で、自分らしい力を少しずつ伸ばしていきます。
おわりに
子ども一人ひとりの感じ方や受け止め方は異なります。感受性が高いことは決して「弱さ」ではなく、人の気持ちを思いやれる優しさや、細かな変化に気付く力といった、大切な個性につながることも少なくありません。
一方で、「HSCだから」と決めつけてしまうことも避けたいところです。発達障がいや不安の強さ、環境との相互作用など、似たような姿が見られる背景はさまざまです。
私たち支援者が大切にしたいのは、名前や診断にとらわれることではなく、「この子はどのような環境で安心して力を発揮できるのか」という視点です。子どもの感受性を「困りごと」として見るのではなく、「その子らしい強み」として受け止めながら、一人ひとりに合った支援を考えていきたいものです。








