
― 幼児期の“困った行動”の背景にある発達の特性 ―
「さっきまで機嫌が良かったのに、急に大泣きしてしまう」
「気持ちの切り替えが難しく、長く怒ってしまう」
「思い通りにならないと、床に寝転んでしまう」
幼児期のお子さまのこうした姿に、戸惑いや不安を感じる保護者の方は少なくありません。
特に発達に特性のあるお子さまの場合、「どう対応したら良いのかわからない」「育て方が悪いのでは」と悩まれることもあります。
かんしゃく自体は、発達特性の有無にかかわらず幼児期に広くみられる姿です。ただ、発達に特性のあるお子さまの場合、その頻度や強さ、続く時間などにおいて、より強く出やすい傾向があるといわれています。
臨床発達や療育の現場では、“困った行動”には、その子なりの背景や理由があると考えられています。
今回は、幼児期に見られやすい「かんしゃく」や「切り替えの難しさ」の背景について、発達の視点から考えてみたいと思います。
「わざと」ではなく、“気持ちがあふれている”状態
子どもが大きな声で泣いたり怒ったりすると、大人はつい「言えば分かるはず」と考えてしまうことがあります。
しかし幼児期は、まだ自分の感情を整理したり、言葉で説明したりする力が十分に育っていない時期です。
特に発達に特性のあるお子さまには、
気持ちを言葉で表現することが難しい
思い通りにならないことへの強いストレスを感じやすい
変化への対応に時間がかかる
といった特徴が見られることがあります。
そのため、「嫌だった」「困った」「不安だった」という気持ちが、泣く・怒る・固まるといった行動として表現されることがあります。
つまり、子どもは大人を困らせようとしているのではなく、「どうしたらよいのか分からない」「気持ちをうまく伝えられない」状態になっていることが少なくありません。
「切り替えが苦手」なのには理由がある
発達に特性のある子どもたちは、「次に何が起こるのか」を予測したり、先の見通しを持ったりすることが難しい場合があります。
例えば、
遊びを急に終わらせる
予定が変更になる
好きな活動から別の活動へ移る
といった場面では、不安や混乱が強くなりやすくなります。
大人から見ると「少し待てばいいだけ」に思えることでも、子ども本人にとっては、安心していた状況が突然変わってしまうような感覚になることがあります。
そのため、切り替えの難しさは「わがまま」ではなく、情報を整理したり、先の見通しを持ったりすることの難しさが関係していると考えられています。
“予告”や“見える化”が安心につながる
療育や発達支援の現場では、「急に変える」のではなく、事前に分かるようにする支援が大切にされています。
例えば、
「あと5分でお片付けだよ」と事前に伝える
タイマーを使う
絵カードやスケジュールで流れを見せる
「次は○○だよ」と短く具体的に伝える
といった方法は、子どもが心の準備をしやすくなります。
特に幼児期は、「これから何が起こるのか」が分かることで安心感が生まれやすい時期です。
見通しが持てることで不安が和らぎ、落ち着いて行動できる場面が少しずつ増えていくことがあります。
落ち着いてから関わることが大切
かんしゃくが起きると、ついその場で説明したり、注意したりしたくなることがあります。 しかし、強く感情が高ぶっている時、子どもの脳は「じっくり考える」働きよりも、とっさに自分を守ろうとする反応が優位になりやすい状態にあると考えられています。いわば、頭が「考えるモード」から「防御モード」に切り替わってしまうようなイメージです。
こんな時に
長い説明する
強く叱責
「なんでそんなことするの?」という問いかけ
は、かえって混乱を強めてしまうことがあります。
まずは、
安全を確保する
静かな環境に移動する
短い言葉で安心を伝える
気持ちが落ち着くのを待つ
ことが大切です。
そして落ち着いてから、
「嫌だったね」
「びっくりしたね」
「次はどうしたらいいか、一緒に考えてみようか。」
と気持ちを整理する関わりを重ねることで、少しずつ感情を調整する力が育っていきます。
発達心理学では、このように安心できる大人が子どもの気持ちを支えながら感情を整えていく関わりを「共同調整」と考えています。こうした経験を繰り返すことで、子どもは少しずつ自分自身で感情を調整する力を身につけていきます。
子どもは「安心」の中で成長していく
発達支援では、「困った行動を止める」ことだけを目標にするのではなく、「なぜその行動が起きたのか」という背景を理解することを大切にしています。
子どもは安心できる環境の中で、
自分の気持ちを知り
周囲との関わりを学び
少しずつ切り替えや我慢を経験していきます。
幼児期は、さまざまな力を身につけるための「練習中」の時期です。
すぐにうまくいかない日があっても大丈夫です。
一つひとつの経験の積み重ねが、子どもの「できた」という自信につながり、心の成長を支えていきます。
「困った行動」の奥には、子どもが伝えたい気持ちや、助けを求めるサインが隠れていることがあります。
その背景に目を向けながら、安心できる環境の中で寄り添い続けることが、子どもの健やかな成長の土台になっていくのではないでしょうか。








