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2026-06-10
お役立ちコラム

「困った行動」を減らすより大切なこと

行動レパートリーを増やすという考え方

~「困った行動」を減らすより大切なこと~

 「お友達を叩いてしまう」「気に入らないと大声で泣き叫ぶ」「机の上のものをひっくり返す」……。子どものこうした行動に、日々頭を抱え、つい感情的に怒ってしまっては自己嫌悪に陥る。そんなループにはまっていませんか?

「どうしてうちの子は、こんな困ったことばかりするんだろう」 そう悩む前に、少しだけ視点を変えてみましょう。実は、子どもたちの「困った行動」には、大人には見えにくい明確な「理由」と「メカニズム」が隠されています。

  今回は、子育てや療育の現場で広く取り入れられている「ABA(応用行動分析学)」の視点から、子どもの行動の謎を解き明かし、親子のイライラを減らす関わり方のヒントをお届けします。

 その「困った行動」、実は子どもなりの必死なメッセージ
 まず、大前提として知っておいていただきたい大切なことがあります。それは、「子どもに悪意は一切ない」ということです。
 大人から見れば「困った行動」に見えることでも、子どもにとっては嫌がらせをしたいわけでも、親を困らせたいわけでもありません。ただ純粋に、「いまの自分にできる唯一の方法で、必死に気持ちを伝えようとしている」だけなのです。
 発達に特性や課題がある子どもたちの多くは、自分の「こうしたい!」「これは嫌だ!」という強い気持ちを、周囲に上手に伝える手段をまだ持っていません。そのため、大人からすると「どうしてそんなことをするの?」と思ってしまうような行動として表れてしまいます。

 では、なぜ子どもは「適切な方法」ではなく、「困った方法」を選んでしまうのでしょうか。そこには、2つの大きな理由があります。

 

手持ちのカードが少なすぎる!「行動レパートリー」の秘密

行動レパートリーとは? その人がこれまでの人生で身につけてきた、「行動や表現方法のすべて(持ち札)」のことです。
 私たち大人は、喉が渇けば「お水をください」と言えますし、疲れたら「少し休憩します」と言葉で伝えられます。また、他人のものが欲しければ「これ、ちょっと借りてもいい?」と交渉することもできますよね。これらはすべて、私たちが成長の中で獲得してきた「適切な行動レパートリー」です。

しかし、発達の途中段階にある子どもや、言葉の発達に課題がある子どもは、この「言葉で伝える」という高度なカードをまだ持っていません。

 一方で、「叩く」「噛む」「物を投げる」「大声を出す」といった行動は、とても単純でダイレクトです。身体が不器用であっても、言葉が未熟であっても、「誰でも簡単にできてしまう、手っ取り早い行動」なのです。

 「引き出し」がないから、暴れるしかない
 例えば、公園の砂場で遊んでいる場面を想像してみてください。 お友達が使っているおもちゃが欲しくなったとき、言葉のカードがない子どもは、断りもなく手を伸ばして奪い取ってしまいます。逆に、自分のおもちゃを取られそうになったら、言葉で「ダメ」と言えないので、相手をバチンと叩いてしまいます。
 これは意地悪をしているのではなく、「それが欲しい!」「取らないで!」という要求を伝えるための『引き出し(レパートリー)』が、その子のなかにそれしか入っていないからなのです。

 
 大人も裏で加担している!?「困った行動」ほどすぐ叶うという罠
 非常に皮肉な現実ですが、実は子どもにとって「適切な行動をするよりも、困った行動をした方が、自分の願いがカンタンに叶いやすい」という環境のメカニズムがあります。

 ここで、よくある「スーパーマーケットでの一コマ」を振り返ってみましょう。

 お母さんとスーパーマーケットに買い物に行きました。お菓子売り場で好きなお菓子を手に取って、「これ欲しい」と言うと、お母さんは、予定にないものなので「ダメ今度ね」と言いました。子どもにはそれが伝わらないので、要求を通そうとして大きな声で泣き出しました。お母さんは、周囲の目もあるので仕方なくそのお菓子を買いました。
 この一連の流れ、身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。 しかし、この瞬間、子どもの脳内では恐ろしい「誤った学習」が成立しています。
 子どもは「言葉で優しくお願いしても断られるけれど、大声で激しく泣き叫べば、一発で要求が通るんだ!」と学んでしまったのです。
 こうして、「大声で泣く」という好ましくない行動レパートリーが強化され、その後も何度も繰り返される(維持される)ようになってしまいます。大人の「その場を収めたい」という優しい配慮が、結果として困った行動を長引かせる原因になってしまうのです。

 
イライラを撲滅する「2つのアプローチ」
 仕組みが分かれば、対策が見えてきます。ABA(応用行動分析学)の視点に基づき、私たちが今日からできるアプローチは次の2つです。
「できること」の引き出しを増やす困った行動を力ずくで禁止するのではなく、それに代わる「適切な伝え方」を教えてあげましょう。
 
 「行動レパートリー」を増やす(言葉やサインを教える) 学習課題が難しくてイライラしている子には、机をひっくり返す前に「わからない」「手伝って」とカードや言葉で伝える方法を教えます。「手伝って」と言えたら、すぐに全力でサポートします。

「活動レパートリー」を増やす(夢中になれる幅を広げる) 「走る」「おしゃべりをする」「着替える」「お絵かきをする」「お手伝いをする」など、子どもが「取り組める活動の幅」を広げてあげることも大切です。やれることが増えれば、退屈からくる困った行動も減っていきます。

「ちょうだい」と言えばおもちゃが手に入ると分かれば、わざわざお友達を叩いて奪う必要はなくなります。適切なコミュニケーションの幅が広がれば、困った行動の出番は自然となくなっていくのです。

 
「困った行動」のカードを無効化する
 もう一つのステップは、先ほどのスーパーの例とは逆の環境を作ることです。 「泣き叫んでも、叩いても、要求は通らない(お菓子は買ってもらえない、おもちゃは手に入らない)」という経験を、一貫して徹底します。
 同時に、子どもが静かになった瞬間や、「貸して」と少しでも適切な行動ができた瞬間を逃さずに、「言葉で言えたね!かっこいい!」「静かに待てて素敵!」と大げさなほど褒めて要求を叶えてあげます。
「困った行動をしても意味がない。適切な行動をした方が、ずっと良いことがある!」と子ども自身が気づくこと。これこそが、行動を変える最大の鍵となります。

 
怒る子育てから、育てる子育てへ
 子どもの困った行動に出会ったときは、どうか一呼吸置いて、心の中でこう呟いてみてください。 「あぁ、この子は今、手持ちのカードがなくて困っているんだな」と。
 困った行動は、子どもからの「SOS」であり、「新しいスキルを学ぶチャンス」です。 叩く手を掴んで叱り飛ばすエネルギーを、一歩進んで「貸してって言うんだよ」と新しいカードを教えるエネルギーに変えていく。その積み重ねが、子どもの生きやすさと、お母さん・お父さんの笑顔に繋がっていきます。

まずは今日、お子さんができている「当たり前の適切な行動」をひとつ見つけて、思いっきり褒めることから始めてみませんか?

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