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2026-05-26
お役立ちコラム

語尾だけ話すのはなぜ

「語尾だけ話すのはなぜ?」
― 子どものことばの育ちに見られる自然な発達の姿 ―


「りんご」が「ご」になる。 「バナナ」が「ナナ」になる。 「こんにちは」が「ちは」だけになる。

ことばを話し始めた頃のお子さまに、このような“語尾だけを話す姿”が見られることがあります。 保護者の方の中には、 「ちゃんと発音できていないのでは」 「ことばの発達が遅れているのかな」 と心配になる方も少なくありません。

しかし、幼児期のことばの発達を見ていくと、このような姿は決して珍しいものではなく、むしろ“ことばを覚え始めている途中”によく見られる自然な過程の一つと考えられています。 今回は、子どもが「語尾だけを話す」背景について、臨床発達の視点からわかりやすくお伝えします。

 
「ことば」はとても複雑な運動

私たちは普段、何気なく言葉を話していますが、実は発話には非常に高度な働きが必要です。 例えば「りんご」と言うだけでも、

音を記憶する
口の形を変える
舌を動かす
息を調整する
音を順番通りにつなげる といった多くの動作を同時に行っています。
大人にとっては自然にできることでも、話し始めたばかりの子どもにとっては、とても難しい作業です。 特に長い単語になるほど、口や舌を滑らかに連続して動かす必要があるため、まだ発達途中のお子さまは「全部を言う」ことが難しい場合があります。 その結果、比較的発音しやすい部分だけを取り出して話すことがあります。

 
語尾は“聞き取りやすく記憶に残りやすい”

子どもが語尾だけを話す理由の一つとして、「語尾の音が印象に残りやすい」という特徴があります。

心理学や言語獲得の研究でも、人間は言葉の「最初」や「最後」の音が特に記憶に残りやすい(親近効果)ことが知られています。さらに日本語は、言葉の後半にアクセントや伸ばす音が入ることも多く、子どもにとって耳に残りやすい場合があります。

例えば、

「いちご」→「ご」
「でんしゃ」→「しゃ」
「ジュース」→「ス」 のように、最後の音だけを取り出して話すことがあります。
これは、「最後しか覚えていない」というよりも、“自分が言いやすく、印象に残った部分を使って伝えようとしている”姿と考えることができます。つまり、子どもなりに一生懸命コミュニケーションを取ろうとしているのです。

 
一時的に記憶する力や「音韻意識」が育っている途中

子どもが長いことばをそのまま言えないのは、耳から入ってきた音の並びを、頭の中で一時的に記憶しておく力(脳のメモリ)がまだ小さいためでもあります。

また、ことばの発達には「音韻意識(おんいんいしき)」という力も関係しています。これは、「ねこ」は「ね」と「こ」の2つの音からできている、と言葉がいくつかの音で構成されていることに気づく力です。

幼いお子さまは、まだこの力が十分に育っていないため、言葉を細かい音に分解して捉えるのではなく、ひとつの「かたまり(メロディのようなもの)」として聞いています。 そのため、頭のメモリに残りやすく、かつメロディの最後で一番印象に残りやすい「語尾」だけを取り出して発音することがあるのです。

しりとり遊びや言葉遊びを楽しめるようになる4〜5歳頃になると、この音韻意識や記憶の力もぐんぐん育ってきます。つまり、語尾だけを話す姿は、「ことばを音として学んでいる途中の姿」とも言えるのです。

 
発音が難しい音は、省略されることもある

子どもは、生まれた時から日本語のすべての音を発音できるわけではありません。 例えば、

「さ行」
「ら行」
「きゃ・しゃ・ちゃ」などの拗音(ようおん) は、幼児期には難しいことも多く、成長とともに少しずつ獲得していきます。
そのため、

言いにくい音を別の音に置き換える
難しい部分を省略する
話しやすい部分だけを言う ということがよく見られます。これは発達の過程では自然なことであり、多くのお子さまが経験する姿です。
 
大切なのは「伝わった喜び」

この時期に最も大切なのは、「正しく言わせること」よりも、“伝わる経験”を増やしていくことです。

例えば、お子さまが「ご!」と言った時に、 「りんご食べたいんだね」 と、大人が意味を受け取って正しいことばで返してあげる経験(拡充模倣)は、ことばの発達にとってとても大切です。

反対に、「違うでしょ、り・ん・ご!」と何度も訂正され続けると、子どもは話すこと自体に自信を失ってしまう場合もあります。 子どものことばは、「できない部分」ではなく、「伝えようとしている気持ち」を受け止めながら育っていきます。

 おわりに ― “ことばの芽”をゆっくり育てていく ―

子どもが語尾だけを話す姿は、決して「怠けている」「ふざけている」わけではありません。
それは、
音を覚えようとしている
口や舌を一生懸命動かしている
自分なりに伝えようとしている という、ことばの発達の途中に見られる大切な姿です。
幼児期のことばは、一段飛ばしではなく、少しずつ積み重なるように育っていきます。「ちゃんと言えていない」ことに目を向けるよりも、「伝えようとしている」「話したい気持ちが育っている」という部分を大切に見守っていくことが、安心したことばの発達につながっていきます。 焦らず、比べすぎず、その子なりの“ことばの芽”をゆっくり育てていけるとよいですね。

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