
「さっきやっていないって言ったのに…」
「本当じゃないことを言うことが増えた気がする」
4歳前後のお子さまを育てる中で、このような姿に戸惑う保護者の方は少なくありません。
特に、発達に特性のあるお子さまの場合、
「わざとなのかな」
「このままで大丈夫だろうか」
と不安になることもあると思います。
しかし、発達心理学の視点から見ると、幼児期の“嘘”の多くは、単なる悪意ではなく、子どもの心や認知の成長の中で自然に現れる姿でもあります。
今回は、4歳前後の子どもに見られる「嘘」の背景について、発達心理学やABA(応用行動分析)の考え方をもとに、やさしく整理していきます。
「嘘」が見られるのは、心が育っているサインでもあります
4歳前後になると、子どもは少しずつ、「自分と相手では、見えていることや考えていることが違う」
ということを理解し始めます。
これは発達心理学で「心の理論(Theory of Mind)」と呼ばれる力です。
例えば、
· 相手が知らないことを想像する
· 相手の気持ちを考える
· 自分にとって不利なことを隠そうとする
といった行動が少しずつ見られるようになります。
つまり、「ごまかす」「言い換える」「都合よく話す」といった姿は、相手の視点を考えられるようになってきたことの一側面とも言えるのです。
もちろん、だからといって嘘を推奨するわけではありません。しかし、“嘘をつく=性格が悪い”と単純に考える必要はない、ということは大切な視点です。
発達に特性のあるお子さまの場合に見られやすい特徴
発達に特性のあるお子さまでは、一般的な「嘘」と少し異なる背景が関係していることもあります。
空想と現実が混ざりやすいことがあります
ASD傾向のあるお子さまでは、
「こうだったらいいな」
「前に見たこと」
「想像したこと」
などが混ざり合い、本人の中では“本当にそう感じている”形で話されることがあります。
これは、相手を騙そうとしているというよりも、まだ頭の中の整理が発達途中であることによるものです。
大人から見ると「話を作っている」ように見えても、本人には強い悪意がない場合も少なくありません。
「怒られたくない」が先に出てしまうこともあります
幼児期の子どもは、まだ感情や言葉を整理する力が十分に育っていません。
特にADHD傾向のあるお子さまでは、
· とっさに言葉が出る
· 先に否定してしまう
· その場を避けたくなる
といった衝動性が見られることがあります。
また近年の研究では、幼児期の「嘘」は、
· ワーキングメモリ
· 抑制制御(ガマンする力)
· 実行機能
など、脳の発達と関係していることも示されています。
つまり、「どう言えばよいか」を落ち着いて整理する前に、“今この場を何とかしたい”という気持ちが先に出てしまうのです。
ABA(応用行動分析)では「理由」に注目します
ABAでは、「すべての行動には理由がある」と考えます。
子どもの“嘘”も、叱るべき性格の問題としてだけではなく、「なぜ、その言葉が必要だったのか」を考えることを大切にします。
例えば、次のような背景があります。
① 怒られたくない(回避・逃避)
最も多いのがこのタイプです。
「失敗した」
「やっていない」
「注意されそう」
そんな不安から、とっさに「やったよ」「知らない」と答えてしまうことがあります。
② 認めてもらいたい(注目)
「すごいねと言われたい」
「見てほしい」
そんな気持ちから、少し大きく話したり、話を盛ってしまったりこともあります。
これは“注目を求める心”の表れでもあります。
③ 欲しいものを手に入れたい(要求)
「ゲームしたい」
「おやつ食べたい」
という気持ちから、
「もう宿題終わった」
などと話す場合もあります。幼児期にはよく見られる姿です。
大切なのは「嘘を責めること」より「安心して話せること」
子どもが嘘をついた時、つい厳しく叱りたくなることがあります。
しかし、強く問い詰められる経験が続くと、「正直に言うと怖い」という気持ちが強くなり、さらに隠そうとすることがあります。
ご家庭でできる関わり方
正直に言えた時を大切にする
最も効果的なのは、「本当のことを話せた経験」を積み重ねることです。
例えば、
「教えてくれてありがとう」
「正直に言えたね」
「一緒に考えようか」
といった関わりは、子どもに安心感を与えます。
理由を問い詰めすぎない
「なんで嘘ついたの?」と聞かれると、幼児はうまく説明できず、さらに混乱することがあります。
そのため、「どうしたの?」「何があったのかな?」と、安心して話せる聞き方の方が、気持ちを整理しやすくなります。
おわりに
4歳前後の“嘘”は、多くの場合、子どもの未熟さや心の成長過程の中で見られる自然な姿です。
特に発達に特性のあるお子さまでは、
「困っている」
「不安」
「うまく言葉にできない」
という背景が隠れていることも少なくありません。
大切なのは、「嘘をなくすこと」だけを目標にするのではなく、「この子は、どんな気持ちだったのかな」と背景に目を向けることです。
“正直に話しても大丈夫”
そんな安心感の積み重ねが、子どもの自己理解や信頼関係、そして将来のコミュニケーションの土台になっていきます。








