
何度も聞くのは「困った行動」でしょうか
「さっきも答えたよね」「どうして何回も聞くの?」――。子どもから同じ質問を繰り返されると、思わずそう感じてしまう場面は少なくありません。忙しい日常の中では、保護者の方にとっても大きな負担に感じられることがあるでしょう。
しかし、発達に課題のあるお子さまに見られる“繰り返し質問”は、決して意味のない行動ではありません。それは、子どもが自分なりに環境を理解し、不安を調整し、人とつながろうとする中で生まれている、大切な「こころの動き」なのです。私たちはまず、「やめさせるべき行動」として捉えるのではなく、「何を伝えようとしているのか」という視点から、この行動を見つめ直す必要があります。
見通しが持てない世界で、安心を探している
発達特性のあるお子さまにとって、「これから何が起こるか分からない」という状態は、私たちが想像する以上に大きな不安につながります。特に自閉スペクトラム症(ASD)の傾向がある場合、予定の変化や曖昧な表現は、強いストレスの要因となることがあります。
「今日も迎えに来る?」「このあとどうするの?」といった繰り返しの質問は、その不安を少しでも和らげるための行動です。同じ答えを何度も聞くことで、「変わらない」「大丈夫」という感覚を自分の中に積み重ねているのです。こうした背景は、発達心理学でいう「予測困難性への不安」としても知られています。
「分からない」を埋めるための確認
もう一つ見逃してはならないのは、「理解」や「記憶」の難しさです。言葉の意味を十分に捉えきれなかったり、一度聞いた情報を保持することが難しかったりする場合、子どもは「もう一度確認する」という方法で情報を補おうとします。
とりわけワーキングメモリ(作業記憶)の弱さがあるお子さまは、「聞いたことを頭の中で保ち続ける」こと自体が負担になりやすく、結果として同じ質問を繰り返すことになります。このときの質問は、「分かろうとしている努力」のあらわれでもあります。
「関わりたい」という気持ちの表現
繰り返し質問は、ときに“コミュニケーションの入り口”としての役割も担っています。どのように会話を始めればよいか分からない、関係をどう続ければよいか分からない――そのようなとき、子どもは「いつも通りの質問」を通して、人とのやり取りを成立させようとします。
「質問する→答えてもらう」というやり取りそのものが安心であり、人とつながるための大切な手がかりになっているのです。内容が同じであっても、その背景には「関わりたい」「つながっていたい」という思いが込められている場合があります。
行動が“心地よさ”を生むとき
さらに、質問と応答のやり取り自体が、子どもにとって心地よい刺激になっていることもあります。決まった言葉のリズムや流れが安心感を生み、それを繰り返すことで気持ちが安定する――いわば自己調整の一つの方法です。
この場合、やり取りは単なる情報交換ではなく、「落ち着くための行動」として機能しています。意味だけを見てしまうと理解しにくいですが、「その子にとっての心地よさ」という視点で捉えると、見え方が大きく変わります。
「やめさせる」支援から「支える」支援へ
こうした行動に対して、「もう聞かないで」と止めるだけでは、子どもの不安や混乱はむしろ強くなってしまうことがあります。大切なのは、「この質問は何のために出ているのか」を見極め、それに応じた関わりを選ぶことです。
たとえば、不安が背景にある場合には、「あとでね」といった曖昧な言葉ではなく、「3時になったらおやつを食べようね」と具体的に伝えることで、見通しを持ちやすくなります。また、スケジュール表や写真、タイマーなどの視覚的な手がかりを用いることで、「見て分かる安心」を提供することも有効です。
さらに、「どうして気になるのかな」「心配だったね」と気持ちに寄り添う関わりは、子どもにとって大きな安心につながります。その安心が積み重なることで、確認行動は徐々に落ち着いていくことも多く見られます。
行動はすべて“意味のあるメッセージ”
子どもの行動は、決して偶然に起きているものではありません。その一つひとつに、その子なりの理由と意味があります。繰り返し質問もまた、「不安を減らしたい」「分かりたい」「つながりたい」という切実な思いの表現です。
私たち大人がそのサインに気づき、受け止め、適切に応えていくことで、子どもは少しずつ安心し、自分の力で世界と向き合えるようになっていきます。
「困った行動」に見えるその姿は、実は“助けてほしい”という静かなメッセージかもしれません。
その声に耳を傾けることから、支援は始まります。
そして、こうした関わりは、発達心理学や応用行動分析(ABA)、構造化支援(TEACCH)などの実践においても有効性が示されており、多くの研究と臨床現場で支持されています。








